ハンセン病と向き合った、穏やかで凄みのある映画「あん」

全く情報のないまま見た映画。

それだけに受けた衝撃は大きかった。

春、一軒のどら焼きや(すごい狭い)ところに、徳江(樹木希林)がニコニコしながらやってくる。店長の千太郎(永瀬正敏)は何事かと思うが、徳江はどら焼き屋で働きたいと告げる。

最初は年齢のために断るが、二回目に店にやってきた徳江は、自作の「あん(甘いやつね)」をタッパーに入れて持ってきて、それを千太郎に手渡して去る。

一度は捨てるが、思い直してタッパーに入ったあんを味見してみる。

それはとても美味しいもので千太郎は驚く。

結局、それがきっかけで徳江はどら焼き屋で「あん作り」を手伝うことになる。

徳江は、独特の調子で朝早くから「あん」を作っていく。

若干閑古鳥っぽかったそのどら焼き屋は、味が良い「あん」がきっかけで大繁盛する。

季節は夏。千太郎はオーナーから「徳江についてのある情報を」聞かされ、ショックで店に出られなくなってしまった。その代わりに徳江がどら焼きの皮を焼き、同時に接客もこなした。

そうしている内、店の常連客であった女学生のワカナ(内田伽羅)と徳江は静かな親交を深めるのだった。

秋。寒くなってきているが不思議と客足がぱったり途絶えた。「徳江についてのある情報」が原因であることは明らかだった。

やむを得ず、千太郎は徳江に「店をやめてもらう」と告げた。徳江は気にするふうでもなくそれに同意し、店を去った……

はっきり言えば「ハンセン病についての啓蒙映画」なのだが、全くそういう風に見えない。

どら焼き屋を取り巻く人達を、季節の彩とともに単に映像化しているだけにしか見えない。しかしハンセン病についてその患者たちがどれほど差別され苦しめられてきたかが思いに焼き付く。

押し付けがましいわけでもなく、お涙頂戴でもないのに、心に「ズシン」と響くくのは、ひとえに監督の力量だろう。

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ドキュメンタリー出身の監督さんでしたか。

徳江の心象を「あん」に映し出した見事な作品である。

おそらく、観客を「泣かす」ことは、この背景からして難しくない。しかし監督はあえてそれをせず、その直前で場面を転換する。

それがより問題を際だたせるのに成功している。

個人的には「最近の日本ドラマの泣きの演技」にちょっと辟易していたので逆に新鮮な映画だった。