当時の戦争観に? 「秋刀魚の味」
この映画の芸術的論題は置いておいて、一つ興味深い点があった。
主人公である平山周平(笠智衆)は、海軍時代の部下であった坂本芳太郎(加東大介)と出会う。
バーで海軍時代の話になるが、そのとき坂本は「なんで戦争に負けたんだろうなぁ?」と平山に質問する。
平山が答えに窮していると、さらに坂本は「戦争に勝ってたらなぁ、今頃は青い目をしていた奴らに……」などという。
21世紀の今から見ると、なんとも不思議な認識である。
どう考えても、兵力・資源に劣る日本が、アメリカに勝つはずがない。もちろん、戦況によっては敗戦がもうちょっと遅くなったかもしれない。
しかしそれは「早いか遅いか」の問題であって、やはりいずれにしても敗れていたことに間違いはない。
坂本がこのように語っても、この映画がことさら問題視されなかったのは、当時の日本人の大半がこのように考えていたからなのだろう。
ただしちょっと考慮すべき点がある。それは坂本が所属していたのは「海軍」だったということだ。しかも船乗りだ。
だとすると南方や大陸で惨憺たる体験をして引き上げてきた「陸軍」の人たちとは、見方が異なるだろう。
それにしても「日本が勝ってもおかしくはなかった」という考え方は、不思議でならない。
これは、戦争のかなりの部分が明らかになった現代だからそう言えるのかの知れない。戦後直後は戦況についてまだ不明な点もあったのだろう。