アメリカ(700US)と環太平洋(700APT)二つの700MHz帯

700MHz帯の再割り当てで、全く違う方向性に歩んだ二つの取り決めがある。

そのスタートは同じである。テレビがデジタル化したことにより700MHz帯の携帯電話への再利用が可能になったのである。

アメリカの携帯電話事業者は、その電波特性からどの会社も、自社へ700MHz帯を割り当ててほしいと望んでいた。

これに対し、電波を管理する処務官庁「連邦通信委員会」は、オークション形式で割り当てることにした。2008年のことである。

割り当てられたLTE bandは、12、13,14、17で、これを5つのブロックに分けた。こうして決められた700MHz帯は正式でも公式でもないが「700US」と呼ばれている。アメリカで売られているSIMフリー端末に「700US」との記載があれば、「あぁ、アメリカで使われているLTEを利用することができるのだなこの端末は」と理解できる。

公共性の高い電波というものをオークションで決めた是非はともかく、少なくとも700MHz帯を使いたいからと言ってアメリカが勝手に決めた規格ではなく3GPPのそれに沿ったもので、また電波の管理は国ごとに行うのが通例だから、その意味ではこの電波配分は何も間違ってはいない。

しかし世界的な見地がすっぽり抜けていた。というのも同じ時期に3GPPは、700MHz帯のさらなる効率的な利用のための、規格を策定しそれを推奨していたのだ。

それには名前がある。「700APT」である。APTというのは「Asia-Pacific Telecommunity」の頭文字からとられている。この規格はアジアのみならず環太平洋も含められた、壮大なプロジェクトであった。

これは想像でしかないのだが、3GPPの中の人にとって「アナログテレビ用電波の停止」というのは大きなチャンスと考えたのではないだろうか。

というのも、テレビという超巨大範囲に散らばっている電波にかかわる機器がアナログからデジタルに変わるのである。世界的な電波再編が強制的に起こるはずである。どこかの国が「いや自分の国はアナログがいい」と言い張ったとしても、各電子立国が「いやもう時代はデジタルですんで」ということになり、誰もアナログテレビを作らなくなる時代がいつかは来てしまう。それは経済が絡んでくるから、一気に変革される。デジタルテレビとアナログテレビを両立して作るなんて非効率である。

かくしてその波は2008年に訪れることになった。

3GPPがそのために割り当てたbandは28である。

700MHz帯を各国共通にするとどんな利益があるだろうか? まず端末を作るにあたり、無駄に広いバンドを設定しないで済む。情報量の問題はあろうが、ひとつのバンドを共用としているならば、機器の設定も単純化できる。

そして使い始めてからも便利になる。ある国から別の国に移動しても、同じ端末で電波を利用できるのだ。

また、700MHz帯を使うことを前提とするのであれば、ひとつの規格で決めたほうがいい。なぜなら特に国境近くなどで生じやすい「混線」という問題も解決することができる。

経済的にも利便性からも、バンドの共用は進めるべきである。

3G時代の不毛な争いに懲りたのか、電波の規格を決める機関や、割り当てる国、そして機器製造会社も協力することになった。

現在18の国が、700APTに参加している、あるいは参加する予定になっている。

で、もともと3GPPも期待していなかったのかアメリカはこの規格に入ってはいない。いまさら再編した700MHz帯を崩すわけにもいかないだろう。

しかしここで面白いことが起こった。アメリカ携帯通信事業者が使用する端末の対応バンドに28が採用されるようになってきているのだ。

これはアメリカがband28を利用するようになったということではない。アメリカの利用者が海外でローミングするのに便利なので、その規格に乗ったのだ。べつにアメリカはband28を利用するわけではない、対応端末を採用しただけであるので、どこにも問題は発生しない。

ここで日本にも若干の益があるのだ。

700APTには日本も参加している。日本はアナログ停波の時期には700MHz帯を携帯電話では使用していなかった。まだ古い割り当ての機器の使用停止が行われていなかったからだ。

その意味ではすっぽり抜け落ちていた周波数帯であるといえる。

ようやく古い機器の終了のめどが立ち、2015年ごろから日本の携帯電話会社は新たに割り当てられた700MHz帯の使用を開始した。

では、ここでアメリカ在住のサラリーパーソンのジョニーに登場してもらおう。彼は急遽日本出張を命ぜられた。

「いやー、困ったな―ジャパンではスマートフォンをどうしようかな」

心配ない。新しいアメリカのスマートフォンはband28に対応しているので、アメリカ携帯通信会社のSIMカードを使ってローミングが可能なのだ。

ということは、この逆っぽいことも技術的に可能になる。欧米で販売していて日本では売っていないあのスマートフォン。買いたいが買っても日本で使えない。

これは日本の独自の電波利用法もかかわってくる。ドコモのバンド19.auのバンド18など主力bandは、アメリカの端末だと全く対応していない。使えるのはPixelかiPhoneかという具合だ。

ここでband28の登場である。あとは分かるな。